世界一のマイクシールド

2011年9月に福島県桑折町に建設された仮設住宅にてコンサートを行った。そこには浪江町からの移住者の方々が生活していた。

終演後、加藤さんという父親ほどの年齢の男性から、次の目的地であった新潟県柏崎市のお店の「御食事券」をいただだいた。聞けば同じく被災した同郷の仲間が働き始めたお店だという。自分の代わりに行ってあげて欲しいと。

タイトなスケジュールだったので恐らく行けないだろうなと思ったが、断るのも気が引けたので御礼を言って受け取った。

道中のサービスエリアでその御食事券が入った茶封筒を開けてみると、なんと5000円札が1枚入っていた。
とんでもないものを受け取ってしまった、と思った。

その夜、なんとか約束を果たすと、加藤さんはとても喜んで「世界一のマイクシールドを送るから」と電話越しに言った。加藤さんは浪江町で親の代から続く音響機材会社の職人さんだった。

そうして僕のもとに届いた「赤い糸」。その後加藤さんは仮設住宅を出て、奥様と共に福島市内のアパートで生活をしている。2013年5月には加藤さんからの依頼で、他の仮設住宅を訪問した。男性4人で写っている写真はそのときの写真だ。

赤いマイクシールドは、既に全国各地1000公演以上で使用している。性能や耐久性的にももちろんだが、何より僕に前進する勇気を与えてくれる世界一のマイクシールド。震災の記憶と共に、これからも大切に使って行きたい。