コーンポタージュ

「余りある人生」こそが理想だなんて思い始めたのは
傾きかけた夏の閉店間際


花粉の飛び交うような甘い出会いは強固に屈折したこの思想に
ひとしきりの変化をもたらしてくれた


100パーセントが欲しくって壊れる程に突っ走って
猛スピードで流れ行く電車にどうにか乗れないもんかなと首を傾げていた


そうやって「世の中のありとあらゆる美味しいものを全て食す旅」
に出ることこそが我が人生の最良の極みだと盲信していたんだ




描ききれなかった情熱の肖像画
この手から零れ落ちた華やかな色彩たち

ときどき思い出しては少しへこんで
ひとしきり涙を落としてひと眠りして

目が醒めたら「おはよう!何一つ変わらないこの世界」





我慢できずにコーンポタージュを飲んだのは
よく冷えた秋の始まり


欲望が先走って美味しいスープを飲み干してしまったら
缶の奥底に眠る「黄色い宝石」が出てこなくなってしまった


慌てて何度も叩いてみるへばりついた缶の底
あのコーンの粒こそが「コーンポタージュ」の全て


だけどひと粒も出て来なくって次第に口が痛くなって
無駄だってことにやっと気がついたら
あまりの悲しさに缶をポイっと投げ捨ててしまった




結局手に入らない最良の財宝
それは誰もが認める幸せの象徴

「自分自身が未完の大書なんだよ」って誰かの言葉を拝借したら
急に誇らしげな気持ちになってきたぞ

他人の花は赤いのか?大事なのは今の世界を愛すること




そう、僕の幸せはそのうちきっと僕が決めるのだからさ
金も名声もコーンの粒も生きれる分だけあればいいよ


それは言わば映画の予告編のような人生
見えそうで見えない感動の結末


尽きない欲望、それは枯れることのない希望
ああ、余りある人生の何と美しきこと